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ACL損傷集中講座 3コマ目 【診断・検査】 [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

さて、今日はハードなオペがうまく行ったことに安心して、病院で暮らしているにもかかわらず、
同僚の先生と一緒に松葉杖&ギブス姿で病院近くの飲み屋に行った所、患者に間違われて、

『病院抜け出して飲みに来ちゃったんだろ。たまにいるんだよなー、そういう若い奴が!』

と、お店の常連客に声をかけられました。
医師としてはちょっと複雑な気分・・・
入院中に病院を抜け出して、飲みに行ってる患者がいるんだな。\(°o°;)/

まぁ、そんな整形外科医がおくるACL講座も、ついに3回目を迎えました。
今日は、診断と検査についての話です。
まず、自分でも簡単に分かる自覚症状を紹介します。

・関節血腫
当たり前の話ですが、ACLは関節の中にあります。
靭帯損傷が起きると、関節内に血液がたまり、膝が腫れます。
膝の外傷後に関節が腫れたら、前十字or後十字靭帯損傷、又は膝関節の骨折を疑ってください。

とにかく、外傷後の膝の腫れは疲れによるものや運動後の膝の腫れとは違い、重症である場合が多いので、必ず整形外科を受診して頂きたいと思います。

・膝崩れ
ACLが切れてしまうと前方に膝が抜けてしまう事になります。
歩行時や階段昇降で、膝が『ガクッ』と外れる感じがあったら、要注意です。

上記の2つは、みなさんでも簡単に分かる臨床的な靭帯損傷のサインです。
心の片隅にでも置いていただくと非常にありがたい。

続いては、病院での診察。
整形外科医であれば、徒手検査(膝を前方に引き出したり、捻ってみて脱臼があるかどうか確認する)で半分以上のケースは診断可能です。ただ、アスリートの場合、その人並み以上に優れた筋力がゆえに、徒手検査だけでは診断がつきにくい場合があります。
当院でのルーティン検査は、以下の2つ+αです。
その検査の概要と目的を簡単に説明します。

・テロスX-p(レントゲン
これは、15kgほどの力で、ふくらはぎを前方に押し出して取ったレントゲン写真です。
こんな感じで撮影します。
要するに、ACLに負荷をかけて、本当にACLが機能しているのかを調べます。


そして、撮影した写真がこちら!

 

左側がACL損傷側なのですが、ACLが切れることで下腿が前方に偏位しちゃってますね。
実際に計測すると15mmほどの差が出ています。
(正常人の場合、左右差はあっても5mm以下)
ACLが切れると、これだけ膝が前に抜けちゃうんだということが分かってもらえれば十分です。

これで9割以上の患者さんは診断がつきます。
それと同時に、X-pではACL損傷時の外力に伴う骨傷の有無などもチェックしています。

・MRI
テロスでも分からないような症例は、MRIが頼りになります。
例えば、靭帯の部分断裂の場合なんかはMRIじゃないと分かりません。
また、ACL損傷の診断がついても、他の靭帯や半月板、軟骨等に損傷があると、同時に様々な処置が必要になります。
治療の戦略を立てると言う意味でも、かなり重要な検査です。
個人的には必ず行っている検査です。

・関節鏡検査
前述の検査でもはっきりしない場合や、部分損傷などでオペか装具療法かを迷うような症例では、関節鏡検査を行います。実際に関節の中をカメラで見ながら、金属製の棒で靭帯を触って、連続性や断裂の有無をチェックします。
ってゆうか、ここまで行くと腰椎麻酔や全身麻酔でやるので、ほとんど皆さんの感覚で言うと、手術に含まれるかもしれません。



これは、ACL再建1年後の患者さんです。
右下から左上に向かって走っている線維が、再建された靭帯です。
真ん中にL字状の金属の棒が見えますが、この折れ曲がっている部分の大きさが2mmくらいです。
こんな棒を膝の中に入れて、あちこちを触診しています・・・


現場での話に戻ると、9割以上の患者さんは診察、X-p(レントゲン)、MRIで診断がつけられます。
ただ、正直なところ診察と画像だけでは分からない症例もあります。
そういった分かりにくい症例に限り、関節鏡検査を行います。

さて、このように診断がついたら、いよいよ治療になります。
手術で再建するのか、そのままにしておくのか・・・
そのあたりの話を、明日からしていきますね。

しかし、ギリギリの更新でした。
焦って書いた挙句、つまらない内容というのが最悪のパターンなので、2日に1回くらいのペースにはなってしまいますが、きちんと準備をしながら更新して行きたいと思います。

~つづく~
※本記事内に掲載された文章および写真の無断転載を禁じます

 


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コメント 4

M

はじめて投稿いたします。
うちの選手のことですが、
07.12.30GSトレーニング中に転倒し、MRIもとり医師より前十字靭帯損傷
と診断をうけ、保存療法を指導していただきリハビリをしています。

08.1.8より雪上トレーニングの許可もでたので、GSスキーによるフリースキー。
08.1.18県中SLインスペクション中に横滑りから方向転換する際、膝崩れをおこし、DS。
08.2.2担当医師より雪上トレーニングの許可もでたので、GSスキーによるフリースキー。
もう一回膝崩れがあれば、手術を考えろといわれました。
中学2年男子ですが、成長期のいま手術はどういうものでしょうか?

もちろん雪上トレーニングのほかに、エアロバイク、ストレッチはプログラムを組んでやっています。
アドバイスよろしくお願いします。
by M (2008-02-02 17:05) 

simimasa

はじめまして。
コメントありがとうございます。
実際に診察をしていないので、推測による答えとなってしまうことをご了承くださりますよう、お願い申し上げます。

まず、エピソードをお聞きすると、軽度の回旋力で膝脱臼を起こしている為、ACLはあまり機能していない可能性が高いようです。
ACL硬性装具を着用しての復帰でしょうが、アルペン競技の膝にかかる外力の大きさを考慮すると、再断裂を起こしたり、半月板や軟骨の合併損傷を遅かれ早かれ起こす可能性は否定できません。

ただ、筋力、骨格等によっては、ACL不全をカバーしてスキーを続けられる方もいらっしゃいますので、権利・ポイント・タイトル等のかかっている選手であれば、試合を選んでエントリーしていただき、シーズン終了後にACL再建を含めた治療を行うと言うのも一つの選択枝としては良いと思います。

また、やはり膝不安定性が高く、満足なパフォーマンスが得られなければ、早めに手術を計画すると言うのもまた、正しい選択枝です。

ただ私の経験では、アルペン選手、特に男子の場合、保存的治療でパフォーマンスを維持するのは、なかなか難しいと思います。
結果として最終的に手術を選択される方が多いようです。

また、成長期の兼ね合いですが、骨の成長には個人差があります。
MRIである程度評価ができますし、ご両親の身長との比較でもある程度判断ができます。
骨成長期だけど、どうしても手術を希望される場合には特殊な方法で再建する事もできますので、主治医の先生とも良くご相談下さい。

中学生の手術時期決定は非常に難しく、骨成長、ACL不全状態でのパフォーマンス、本人の希望を考慮する事が大切です。
私の場合、成長期のACL断裂患者さんのばあい、
①サポーター着用でのスポーツ復帰を指導し、パフォーマンスを確認
②パフォーマンスに満足がいけば、しかるべき時期(シーズン終了後、大きな大会終了後)のACL再建
③満足がいかなければ、可及的早期の再建
としています。

スポーツレベルが県トップ~全国レベルであれば、まだ成長期であっても、特殊法を用いた再建を行う事が多いです。
ご参考になれば、幸いです。
by simimasa (2008-02-02 19:32) 

M

回答ありがとうございます。

特殊法を用いた再建とはどういう方法ですか?
by M (2008-02-02 19:47) 

simimasa

腸痙靭帯(膝外側にあるコリコリした靭帯)を膝の裏側を回して関節内に引っ張り込む方法や、骨成長線を避けて、靭帯の通るトンネルを作成する方法があります。
(文章で説明するのはちょっと難しいのですが)

ただ、症例数が少なく技術的にも難しい為、限られた施設でしか行われていないと言うのが実情です。
今日(たった今)記事を書いていたところなので、そのあたりにも触れてみました。ご参照下さい。
by simimasa (2008-02-02 20:37) 

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