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ACL損傷集中講座 7コマ目 【BTBによる再建法&ST/BTBの比較】 [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

五輪代表候補の家長選手がACLをやってしまいました!
個人的にはかなり好きなタイプの選手だったので、ものすごいショックです。
北京には間に合わないでしょう・・・残念です。

そんなつらい事もありましたが、今日のテーマは骨付き膝蓋腱(BTB)を用いた再建。
この方法、一昔前は「Golden Standard」と呼ばれていたほど、王道の手術法でした。
膝蓋腱(膝のお皿の下にある腱)を採取して、移植靭帯とするものです。

この白い部分が、膝蓋腱です。
この腱を・・・

こんな感じで切除すると・・・

こういう移植腱が取れます。



腱の両端には、骨が一緒についていますね。
これを、膝関節内に固定して、ACLとします!

靭帯の両端に骨がついているため、移植した靭帯が早期に癒合し、初期固定力も高いと言う利点がありますが、膝立てをしたり、正座をしたりすると膝の前面に痛みを感じる方が多いようです。
ですので、膝をつく事が多いスポーツ(柔道・レスリング)とか、
和式の生活が中心になる方には向いていないのかもしれませんね・・・

そして、昨日書いたような2ルート再建は残念ながらできません。
しかし、STと比べると再建靭帯の幅が太めである事から、
再建のルートをやや斜めに作成する事でそれに近い事ができます。
また、1本とはいえSTの2ルート法より術後早期における膝安定性に優れる
(と、当院では考えている)為、重度の内側&外側側副靭帯損傷を合併している患者さんには、
BTBを積極的に薦めています。


【STG法とBTB法の比較】

さて、ここらへんは手術を受ける時に、結構気になるところだと思います。
再建後のいろいろなファクターに分けて、解説していきましょう。

①スポーツ復帰度や活動性/術後の満足度
両者に差はないといって良いでしょう。
長期的には現在10年から15年の成績が論文になっていますが、
両術式間には、差がないという報告がほとんどです。

②腱採取に伴う筋力低下・愁訴
BTB法では膝伸展(大腿四頭筋)筋力が、ST法では膝屈曲筋力が、術後明らかに低下します。
しかし、術後リハビリテーションや、復帰過程の筋力トレーニングで十分に回復しますので、
腱採取部を意識したトレーニングを心がけてもらえば問題ないでしょう。

ただ、BTBの場合、膝蓋骨の一部を腱と一緒に採取する為、前述したとおり
「膝立て」や「正座」などの、膝前面の接触によって、採腱部の疼痛が出る場合があります。
これは、BTB特有の合併症と言えるでしょう。

よって、採腱部に対する侵襲と言う面では、STGの方が優れているのではないでしょうか。

③膝関節安定性
これは、前後/回旋とも、一般的にはBTB法の方が優れているといわれています。
要するに、膝が「ガッチリ」しやすいということでしょうか・・・

ただ、ACL再建膝というのは安定性が全てではないため、
総合的な臨床成績やスポーツ満足度といったTotalな成績では
ST法とBTB法の間に差は見られません。
あと、BTB法の場合、伸びにくい膝になるケースが希にあります。

④移植腱の固定・生着について
これも、BTB法の方が骨がある分がっちりと固定する事ができ、
周囲の骨にもST法に比べ1ヶ月ほど早く結合すると言われています。
そのため、超早期復帰を希望される患者さんや、医者の言う事を聞かず、『無茶』をしてしまいそうな人は、BTB法を選ぶ事があります。

⑤解剖学的な再建の可否

BTB法では移植腱が1本しか作成できないため、前述したような2ルート法の再建ができません。
つまり、生体に近い扇状の靭帯は作れないという事になります。
一方、ST法では2ルート再建が可能です。
現在、3ルート再建を行っている施設もあるくらいです。
(臨床的な成績はまだ発表されていませんが・・・)

ほか、ST法のメリットとして、腱が細くても何回か折りたたんで太い腱を作る事ができます。
女性の場合、採取した腱が細いケースが多いため、
医者側としてはST法の方が融通が効く印象ですね。



つまり、どちらの方法にしろ一長一短があるのですが、
両方式間に(総合的に見た)再建後の成績における大きな差はない!
というのが、現段階における膝専門医のスタンダードな考え方です。
ただ、まだまだACL再建は進化の余地を多分に残しているので、
5年後にはまた、スタンダードが変わってしまっている可能性も十分にあると考えてください。

もちろん、各スポーツ種目で大切な動きを阻害しない様な再建方法を選ぶという考えもあります。。
細かいことを言えば、ハードルの選手なんかは抜き足か踏み切り足かで方法を変えたりとかね。
空手やテコンドーの選手も、軸足と蹴り足を考えたりしますし・・・
まぁ、ここまで行くと膝関節専門医の中でもマニアックと言われるかもしれませんが、
そのくらい一生懸命考えている先生が多いのも事実です。

このあたりの選択は、主治医と納得が行くまでよく話し合ってください。
ちなみにサッカーの世界でも、エスパルスのDrはBTBメインだし、
マリノスやフロンタなら(確か)STGだったと思います。

~つづく~
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