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スキー選手のACL断裂に関して思う事 [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

近年のスキー選手のACL断裂に関して、個人的に常々思う事は、

①ACL断裂発生の低年齢化
②SLのターン後半、または滑走から止まろうとした動作の中での断裂の増加
③GSの高速化に伴う、強い外力(外反強制や過伸展)によるACL断裂の増加

の3つですね。


①については、海外でも同様の傾向があるという話を聞いたことがあります。
(学会だったか、世間話だったか・・・きちんとした文献などが示せず申し訳ない)
特に谷回りにおいては、高い技術を持っていない選手でも(スキーに働きかけなくても)、
簡単に外力を受ける事ができるという事に由来するのかな、と思います。

②に関しては、前回の記事にあるPhantom foot injuryの形態ですね。
SLのセットの変化、SLスキーが持つラディウスが生み出す作用でしょう。
あとは、ターンが遅れた際のリカバリー動作でも、ポジションが後ろだと切れてしまう可能性があります。

③についても、レースの高速化に伴い転倒時に受けるエネルギーが強まることから、
ある意味当然な部分もあるでしょう。

あとは意外な盲点として、転倒後に斜面を流されたりする際にスキーが雪面に引っ掛かって下肢を捻られ、
ACLを損傷するというケースも多いように思います。
これもまた、スキーのラディウスが小さいほど起きやすい現象じゃないかと。


誤解を恐れずに言うと、アルペン競技によるACL断裂予防と言うのは、非常に難しいという印象です。
なぜなら、いくらアライメントを整えたり、防御因子となるハムストリングをトレーニングしても、
ルーティンの滑走動作ではない、突如起きうる異常なシチュエーションにおける、
瞬間での関節への大きな直達外力や、スキーから伝わる外力を防ぐことは難しいと思いますので。


もちろん、動作におけるアライメントの改善やコーディネーション能力の強化が、
ケガの発生と全く関連がないとは思いません。
僕も、膝から下を使った角付けや、回しこみ動作の強い選手は、膝のケガが多いと感じています。

そして、どの競技でも言えるのですが、
「ケガをしない為の滑り」と、「速く滑る為の滑り」「成績を出すための滑り」
が同じかどうかと言われると、正直僕にはわからないというのが現状ですので、
選手や指導者・家族に対して、そのあたりのコメントをする時には非常に慎重になります。


まぁ、ACLだけではなく膝のケガを減少させるためには、特にジュニア期の選手においては、
ゲート滑走時のラインを高くすると言うのがポイントかなと個人的には思っています。
そして、谷回りを早く作って速いタイミングで次の方向に抜け出していくような動きを身につけ、
②のような動きが発生するリスクをできるだけ少なくすることは、なんかの足しにはなるんじゃないかな?
谷回りを作るにも、下腿の回旋動作や上体の先行動作のような捻りの動きはあるだろうけど、
タイミングが遅れたり、身体が遅れてしまった結果、ターン後半で雪面からの外力を受けてできてしまった、
受動的な捻りの動きに比べたら、きっとケガのリスクは少ないはずですので。
もちろん、この滑りが成績の出る滑りかどうかという問題は、また別次元の話です。
(もちろん単純に、『ラインを高くしろ』という事が言いたいんじゃぁないんですけど)


もう一つは、前後のポジションを早い時期にしっかりと意識させ、良い位置を身につけさせること。
スキーのラディウスが小さくなればなるほど、前後方向の重心移動の許容量も小さくなりますし、
特にポジションや荷重のポイントが後ろに行けば行くほど、ケガ発生のリスクは高まるはずですしね。
こちらは、スキーの成績にもプラスになってくれることだと信じております。


そして、シナプスの成長が著しいジュニア期における各種コーディネーショントレーニングや、
異なったスポーツを体験する事の重要性、そして、不整地や新雪、ジャンプなどのフリースキーの重要性は、
今さら改めて話すつもりもありません。


最後に、自分の手術したスキー選手からの傾向をご紹介。


対象はここ4年間でOpeした19膝(男子7例8膝;1名再断裂、女子9例11膝;2名両側断裂)です。
中学生~大学生で、全国大会出場~FIS出場権利持ち以上のレベルに限定しました。
(高速系の経験が含まれる対象にしたつもりです)

<受傷種目>
SL;   9膝
GS;   6膝(うち、1名片ハン)
SG;   3膝
エアー; 1膝

フリースキー中の転倒も、そのターンの弧に合わせて種目を決めています。
やはり、SLが多いですね。SGも試合数の割にはかなり高い確率と言えるのではないでしょうか。
約1名は・・・遊んでた!?(笑)

<再建後の経過>
同レベルを維持し活動; 13例15膝
再建後2年以内に引退; 3例4膝(全例女性)

まぁ、進学や区切りで引退した選手も含まれますが・・・こんな感じです。

<ACL断裂リスクの有無>
狭い窩間顆;4例6膝
強い脛骨後方傾斜;1例1膝
過伸展膝;3例5膝

リスクの定義についてはいろいろとございますが、マニアックになりすぎるのであまりここでは述べません。
動きの中でのアライメントまでは全てデータがあるわけではないので、このくらいでご勘弁を。


余談ですが、もしこの記事を読んで頂いたスキー関係の指導者・トレーナーの方で、
『疑問に答えてあげるよ!』
と言う方がいたら、ぜひお話をさせて頂く機会を頂ければありがたいです。
今、スキー関連で一番勉強したい疑問の一つです。
全国どこでもお伺いしますので、何卒よろしくお願いいたします(笑)
あと、今回の記事でスキーに関する理解の間違いなどがあった時にも、ご指摘くださいませヾ(_ _。)


こんなこと書いてる瞬間にも、ACLの治療は進歩しています。
さっき、これ読んでました。
⇒ http://ajs.sagepub.com/content/39/8/1615.abstract

。。。やっぱ、ハムストリングを用いた再建は、2ルートじゃなくちゃダメなんだろうな。
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403

はじめまして。
Blog興味深く拝見させていただきました。

先生はプラトー骨折とACL断裂の合併で、手術後にスポーツ復帰した患者さんをご存知ですか?

by 403 (2012-01-25 19:00) 

simimasa

⇒403さま

お返事遅れてしまい、申し訳ありません。
詳細は書けませんが、同様のケガから復帰している選手は、ナショナルチームレベルからレクリエーションレベルまで、自分の知る限りでは何人かいらっしゃいます。(ACL剥離骨折を含みます)
by simimasa (2012-01-28 07:58) 

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