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伊藤みきの前十字靱帯損傷雑感と、上村選手への感謝 [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

一昨日からソチ五輪の競技がスタートしてますね。
木曜の深夜に行われていた女子モーグル予選。
先日の記事でも書いた、ACL断裂を放置して試合に臨んだ伊藤みき選手ですが…
残念ながら公トレで膝を再度捻り、痛みによって競技に参加することはできませんでした。
1月15日のW杯のトレーニングでも同様のことはあったようですね。


ACL断裂を放置した場合、膝の捻りによるストレスがかかると膝が亜脱臼してしまい、
大腿骨と脛骨が衝突することで痛みを出します。
これをGiving Wayと言うのですが、スキーだけでなく、カッティング動作、ピボット動作でも、
引き起こされることが多いです。


アルペンスキーの場合、ACLが切れっぱなしでもある程度は出来てしまう部分もあります。
実際に、12月〜1月にACL断裂をきたした選手でも、2月上旬の全中やインターハイに、
切れっぱなしのまま行かせるケースは結構あります。
自分の患者さんで言うと去年は4人、今年は5人の選手がレースに出ていますが、
やれる選手は8割から9割の満足度、できない選手だと5〜6割の満足度ですね。


もちろん、前十字靱帯を切れっぱなしにしてスキーをする事を推奨するという訳ではありません。
進学の推薦に係る場合、ポイントの更新やタイトルレースがかかっている場合、など、
特殊な場合に限ります。
それに加えて…パフォーマンスの満足度は個人差もあるが50%〜90%であること、
軟骨や半月板損傷のリスクがあること、対側損傷のリスクがあること、
そして、医療者にそれらの責任を負えるだけの覚悟と技術があることが条件になります。
もちろん、目標とするレースが終われば即手術!
どの選手も手術の日程を事前に決めておいて、できるだけ早く再建手術を施行します。


ただ、モーグル競技の場合にはアルペン競技よりACL不全の影響は大きいのかもしれませんね。
彼女の場合も、五輪前に試合は出られなかったし、トレーニングでもエアは飛ばなかったようです。
自分の場合には、ノルディックやアルペンに関してはある程度放置例のノウハウはありますが、
フリースタイルに関しては経験が少ないので、あくまで推測になりますけど。


個人的に一つ残念に思ったことは、伊藤選手のDNSが決まってから、
自分のFacebookフィードに、
「なんでメディカルがストップを掛けなかったんだ」
「現地まで行ってできないという状況が予想されるのなら、なんで連れて行った」
「お金の無駄にもなる」
という反応を示す整形外科医や医療者が多かったこと。


選手個人の状況はなんともわかりかねますが、当然欠場⇒手術というのが一番医者も楽だし、
そのような話は絶対にしているはずです。
前述のとおり、実際にスキー選手のACL断裂放置例をしっかりと見て、医学的な見地だけでなく、
パフォーマンスの落ち込みがどの程度なのか、その状態で各々のステージで戦えるのか、
というところまでしっかりと診ている整形外科医やトレーナーであれば、
今回の決断を全否定、という気にはならないと思うのですが…
もちろん、一般的に考えれば欠場を勧めるのが常識的ではありますけど。

そういったメディカルからの情報を踏まえて、やれるかやれないかという判断になるかと思いますが、
このような欠場リスクがあっても、メダルを取る、成績を出す、という事を前提に考えた時に、
Giving way再発のリスク、パフォーマンスの低下を織り込んだ中で、
完全な状態でなくとも、それだけの可能性があるというSAJ(とJOC?)の判断だったからこその、
強行出場という判断だったのではないでしょうか。
どこの競技連盟も勝ちに行こうとしてるんだから、もっと良い選択肢があれば、
選手差し替え、または選考しないという選択をするわけですからね。


極端な話、中学生の女の子が6月にACL損傷をして学校が休める夏休みまで待機するか、
即手術をするか、どっちにしましょうか?という話の延長と何の変わりもありません。
その中で、強い負荷のスポーツをさせるだけの努力と工夫、リスクを取ることをすればよいだけだし、
手術に関しては靭帯再建に加えて半月縫合、半月再建、軟骨・骨軟骨移植の技術と知識を身につけ、
「競技を続けさせた責任」をしっかりと負えばよい話です。
ただ、言葉にすると簡単ですが…相当エネルギーを使わなくてはこれを実現させるのは厳しいですよ。


あと、
「本人の出たいという意志に流されるな」
「医師が出場許可を出してはいけなかった」
という意見もありましたが、さすがにね・・・それはもう、医者だけの問題じゃないですから。
こんなことを議論すること自体がナンセンスかと。


スポーツを見ている医者、特に個人競技を見ている医者であれば、
主治医の立場になったら、その選手の五輪に向けた4年ないしはそれ以上の努力を潰すというのは、
本当に特殊な状況ではないと難しいと思うし、軽々しく口にはできません。
(バンクーバー五輪で藤森選手を欠場させた時のように、本当に危険な状態であれば別ですけど)
前十字くらいで、と言うと語弊はありますが、そこは絶対に休めとまで言える怪我ではないので。。。
チームスポーツならもう少し違ったアプローチから欠場を促すのが当然ですが、
個人競技の場合、特に冬期競技の場合には、各競技連盟のサポートが少ない中、
個人の努力と労力を多く使って取ってきた出場枠になりますので、ちょっと難しい部分もあります。


ただ、そういったジャッジは必要ですし、あってしかるべきものだとは思います。
ただ、それは主治医に委ねられるのではなく、冷静な第3者の医者、
例えば、SAJやJOCの公式ドクターがするべきことなのかもしれません。
今回は、ケガをしてからの主治医と、出場のジャッジをするドクターが同一だったので、
本人が出場を強く希望し、パフォーマンスもある程度保たれていれば、
出場を許可せざるを得ない状況だったのではないでしょうか。


まぁ、
『冷静に出場の可否をジャッジする第3者としての立場の医者』
は、頼まれても絶対にできませんね!
五輪に向けてきた選手の努力と情熱を一瞬で否定しなくてはいけないのですから、
相当つらい立場ですよ(#+_+)



最後になりましたが…
上村愛子選手、本当にお疲れ様でしたヾ(__。)
本当に最後まで立派な競技生活だったと思います。
長野五輪の時には、ケイタイのCMで高校生アイドル的な存在だったのですが、
その後はモーグル競技を引っ張り続け、W杯総合優勝をはじめとする様々な記録を残すとともに、
後輩を、そして、モーグル競技自体を引っ張り続けてきた選手ですね。
長い間、本当にありがとうございました。
最後に、五輪のメダルを取らせてあげたかったですね…
タイムもターンも良かったのに、あの点数?
結局、ネームバリュー重視の採点かい??
と、思っちゃいました⊂`Д´)つ=3
彼女に関しては書きたいこともいっぱいあるのですが、またおいおい機会を作りたいと思います。

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