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ACL損傷集中講座 2コマ目 【疫学・受傷機転】 [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

<発生率・受傷機序>
ACL損傷の発生率は10000人に1人くらいと言われています。
女性の方が男性の2倍から8倍ほどの割合で、発生率が高いようです。

ACL損傷のリスクファクターとしては、
①X脚(外反膝)
②大腿骨が小さい(顆間窩の横幅が狭い)
③ハムストリングの筋力が(大腿四頭筋に比べて)弱い
などがあります。

①は、膝や下腿が捻られやすくなる為
②は、膝の内外反や過進展が強制された際にACLが周囲の大腿骨に接触し、断裂しやすい為
③は、自分の大腿四頭筋力で膝が引き伸ばされた際に、拮抗するハムストが弱いと
膝が過進展強制され、受傷しやすい為と言われています。

これらのリスクファクターを見ても、女性に多いという事が分かってもらえると思います。
あとは、女性だとエストロゲン血中濃度が高い時期(=排卵期)に、
ACL損傷が多いというデータも論文になっています。

受傷形態は、
・接触損傷
(ex.ラグビーのタックルのような大きな外力を受けての損傷)
・非接触損傷
(ex.ジャンプの着地、ピボットターンなどのカッティング動作で膝に無理な力がかかっての損傷)
の2つに分けられます。

一般のスポーツでは圧倒的に非接触損傷のほうが多いのですが、スキーに関してはどうでしょうか!?

スキーにおける受傷パターンとしては
①転倒してポールや雪面に膝をぶつけて受傷
②転倒してエッジが引っかかったり、ハイスピードで逆エッジをくらう事で膝を捻られ受傷
③ジャンプの着地時にお尻が後方へ落ちてしまい、ブーツによって下腿が前方へ引き出されて受傷
④上体が遅れてしまい屈曲位&下腿が外旋した状態で、
 大腿四頭筋を収縮させながら体を前方へ戻そうとした時に自分の筋力で受傷

などのパターンが考えられます。
①は接触損傷、それ以外は非接触損傷ですね。
③,④なんかの、いわゆる腰が落ちて重心が後方に残った態勢を
”ゼンジュー(前十字)ポジション”
なんていう言い方をされるコーチもいらっしゃるかもしれません。

Rの小さい板が主流となって、板と雪面とのグリップが強くなってから、④のパターンでの損傷が増えてきているような印象を受けます。

特にSLで、体が遅れながらスキーのトップをねじ込んでゲートを通過したような時に、ターンの後半で外力が集まってしまい、前方に板と下半身だけがスポーンと抜けてしまうようなシーン、又はそのリカバリーで上半身を戻そうとした力でACLが切れてしまうこともあるようです。
極端な例かもしれませんが、去年のヨーロッパカップで選手がレース中に膝の痛みを感じ、
そのまま滑ってきてゴールを切ったものの、ACLも切れていたというエピソードを聞きました。
(ちなみにその選手はラップだったそうです・・・)

あとは、トップとテールが広い分、エッジや板が雪面に引っかかりやすいせいか転倒した際に逆エッジで足が持っていかれたり、膝が捻られるケースも増えてます。

いずれにせよ、現在のアルペンスキーレースシーンは
ACL断裂のリスクが高い環境が作られつつあるようです。


~つづく~
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ACL損傷集中講座 1コマ目 【ACLとは】 [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

今日からしばらくの間、膝前十字靭帯損傷について集中的に書いてみようと思います。

俺が医師となり、整形外科に入局し、膝関節を専門にしているのは、スキーと関わっていた中で周囲の人間に膝前十字靭帯(以下ACL)損傷が多かったというのが、かなり影響しています。
残念ではありますが、それほどスキーにおけるACL損傷の割合は高いと言えます。選手にとってはケガをしないことが一番であると思いますが、ケガに対する正しい知識を知っておく事も大切です。

そして、15年前に比べ、カービングスキーの出現によってACL損傷の頻度は格段に増加しました。
昔はACL損傷と言えばトップレベルの選手に多く、受傷機転もスピード系種目における転倒やジャンプの着地失敗による断裂が中心だったのに対して、現在では各種目の高速化が進むと共に、ターンにおける外力が大きくなってきたこともあり、種目やレベルを問わず、様々なシチュエーションでの受傷パターンが増えています。

今回は、スキー選手におけるACL損傷を中心に、元スキー選手としての視点から、基礎知識、治療、リハビリ、競技復帰などについての情報をシリーズで連載していくつもりです。
このページを読んで下さる方々が、ケガをする事無くスキーに取り組んで頂ける事を祈りつつ、記事を書き進めたいと思います。

<ACLとは>
まずは膝関節の解剖です。
ACLはどこにあるのでしょうか!?
写真は膝を正面から見ており、右が内側、左が外側です。

 

ACLは膝関節の中央で、内側前方から外側後方へ向かって走行する太い靭帯です。
1本の靭帯ですがAM束とPL束という2本の繊維が寄り合わさってできています。

(写真で言うと、ACLの真ん中に引いた赤いラインの左がPL束、右がAM束です)

余談ですが、最近は解剖学的なACL再建を目指して、
腱2本をそれぞれ別のトンネルに通す方法=2root法を行っている施設が多いのです。

機能としては、この2本がそれぞれ
①膝関節における脛骨前方移動の抑制(主にAM束)
②膝関節における脛骨回旋運動の抑制(主にPL束)
の役割を主に果たしています。 
下腿が回ったり、前方に抜けないようにしているというわけです。

ですので、ACL損傷を起こすと、日常生活やスポーツ動作に伴って
膝崩れ(giving way)や、捻り動作に対する不安感・不安定感を訴えます。
これが、ACL(機能)不全と呼ばれる状態です。

また、ACLには“膝関節がどのくらい曲がっているか(位置覚)”とか、
“膝関節が動いた(運動覚)”ということを感じる感覚があります。
これらは総称して、proprioceptionと呼ばれています。

要するに、ACL不全があると、
「目をつぶって膝を90度に曲げてください」と言われても、うまくその角度が認識できなくなったり、目をつぶっている間に膝を動かされても、動かされている事に気がつきにくくなると言う事ですね。
これは、運動選手にとってはかなりの痛手です。
しかしACLを再建してやると、これらの機能も徐々に回復すると言われています。

 
~つづく~
※本記事内に掲載された文章および写真の無断転載を禁じます


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