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世界トップレベルのスキー選手における、ACL損傷の実際② [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

さて、前回の記事(http://corticalscrew.blog.so-net.ne.jp/2011-08-17)の続きです。
今日は、論文のDiscussion内容の紹介や、論文に対する感想を述べてみます


過去、一般スキーヤーのACL損傷発生率を記した論文では、
男性4.2件/100000 Skiers day、女性4.4件/100000 Skiers dayと言う報告があり、
単位は全く異なる事を加味しても、明らかにアルペンレーサーのACL断裂率は高いという事がわかります。
これは、競技性質や受傷機転、皆さんの経験などからも、異論はない所かと。


あとは、ACL損傷受傷機転の解説や、選手にとっては早期の治療(ACL再建)が必須である事、
大腿骨や脛骨の骨格形態(大腿骨窩間部の広さ、脛骨関節面の後方傾斜)が発生に関与する事、
コンピューターモデルにてビンディングの精度向上がケガ防止につながるという報告がある事、
などが考察にて述べられておりました。


そして、適切な診断と治療を行えば、世界トップクラスのスキー選手であっても、
膝関節の完全な機能を再獲得して、トップシーンへの復帰が可能であるだろう!
というのが、考察の締めの一文でした。


ちなみに、彼らの論文で紹介している、というか、一般的なスキーにおけるACL損傷の受傷機転は、次の5つ。

①Boot-induced anterior drawer
⇒スキーブーツによる下腿の前方引き出し、いわゆる「ゼンジュー」ポジション

②Valgus-external rotation
⇒膝の外反強制(X脚様の肢位強制)による受傷

③(下腿の)Internal rotation and extension
⇒膝過伸展および下腿の内旋強制による受傷

④Forceful quadriceps muscle contraction
⇒大腿四頭筋の強い単独収縮が一瞬で起き、膝が進展して受傷。
(これはHamstの防御収縮が起きなかったケースだと理解してるんだけど。。。間違ってたらご指摘ください)

⑤Phantom-foot injury
⇒ターンの後半で上体が遅れてスキーだけが前方に走り、「発射」してしまうような動き

です。
詳しい事はまたいつかお話できると良いのですが。。。ちょっと論文の本質から外れるのでこのへんで。
もうちょっと詳しく知りたい方には、
http://www.ski-injury.com/
あたりをご覧になると、もう少し詳細に掲載されてますよ。


個人的に気になったことを何点か挙げてみます。

まずは全体的に、結果と考察がもう少しリンクすると面白かったという印象が。。。
もともとの骨形態による発症リスクや、受傷機転関連の話と言うのは既に一般的な理解なんで、
いまさらそれを書かれても何の面白味もないし、結果で関連するデータが示されているわけでもないので、
正直な所、あまり興味をそそるDiscussionではありませんでした。


また、80~90年代の技術&マテリアルと、2000年代のそれでは全てが大きく違います。
そういったものに関連する記述や考察がなかったというのは、ちょっと残念。
女性の発症率が変わらないのに、男性の発症率が増加している事や、
再断裂率&対側損傷率を年代ごと、ってゆうか、カービングスキー出現前後で比較したような、
時間軸での評価が見てみたかったですね。
(おそらく・・・受傷機転や技術系/高速系を比較した断裂発生率のデータでは、差が出そうな気がします)


あとは、本文中にしかなかった結果の記載だったのですが、
ACL断裂の時点で選手生命にピリオドを打った人数は、Top30群では発症例数総数の10%だったそうです。
ACL断裂患者のキャリア年数もさることながら、再建後の経過というのも非常に気になりますね。


術後何年間、Top30のレベル、またはナショナルチームのレベルを維持できたのか?
またはどのくらいの人数が、どのくらいの時期でドロップアウトしたのか?
逆に、ACL再建後の患者が、どのくらいの割合で術後Top30まで上がってこれたのか?
と言うデータが見てみたいです。


フランススキー連盟と言う、アルペン界では非常に大きなグループを巻き込んだ、
しかも非常に長期に渡る、貴重なデータですので、もう少しいろんなエッセンスを覗いてみたいなぁ。
このデータ収集の体制や、そのベースにある医科学サポートの体制、本当に素晴らしいです。


なんか、まとまりのない記事になってしまいました。
明日は、これを読んでの個人的感想及び、個人的経験からのコメントを紹介できればな、と思っています。

世界トップレベルのスキー選手における、ACL損傷の実際① [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

去年、旭川の進藤先生の所にお邪魔した際に、1本の論文を頂きました。
いずれこのブログでも書こうとは思っていたのですが、すっかり掲載するのを忘れておりまして(^-^;)
そんな訳で今日からは、スキー選手におけるACL損傷の状況を調査した論文をご紹介していきます。
内容も長くなっちゃいそうなんで、2回に分けてみます。

論文はコチラ。
American Journal of Sports Medicineという、世界最高峰のレベルに属するスポーツ整形外科雑誌に、
2007年7月に掲載されたものです。
“The Incidence of Anterior Cruciate Ligament Injuries Among Competitive Alpine Skiers”
⇒ http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17468379

症例の対象は、1980年から2005年の間に、フランスナショナルチーム(ウェイティング、ジュニアを含む)に、
1シーズン以上在籍した選手379人(男子191人、女子188人)です。
少なくともFISレース~ヨーロッパカップ以上のレベルの選手たちと考えてください。

結果について、ぶつ切りの話になってしまいますが、簡単に紹介します。

この379人が活動した年(シーズン)数は合計で1836シーズンでしたが、
その間に157件のACL断裂がありました。
発生率としては、8.6件/100 skier season(ss)です。
このSkier seasonという単位はちょっと理解が難しいかもしれませんが、
100人が1年間、20人が5年間活動すれば、8~9人(または8~9件の発症)がACL断裂を経験する、
という事であると理解してもらえれば幸いです。


また、再建したACLの再断裂は20件、両膝のACL断裂は32件、3回以上のACL断裂は9件だったそうです。
(それぞれ、1.1件/100ss、1.7件/100ss、0.5件/100ssです)
ACL再建患者だけに限ると、同側のACL再断裂率は19%、対側のACL断裂率は30%にもなります。


男女間で初回ACL断裂の発生率に差はなく、受傷前の競技経験期間にも差はありませんでした。
選手のキャリア(ナショナルチーム在籍年数)を比べると、ACL非断裂群では平均4.5年であったのに対して、
ACL断裂群では平均7.5年と、ACL断裂を経験した選手の方がむしろキャリアが長い、という結果でした。
また、ACL断裂の発生時期は圧倒的に冬季が多く、春先や秋には少ないという結果でした。


ここからはさらにマニアックな内容となります。
これらの調査対象患者をFISランキング30位以内(Top30)とそれ以外に分類し、データを整理したものです。

【ACL断裂率 他】
                    Top30               Others          
・ACL断裂率       男子50% 女子50%       男子24% 女子23% 
・ACL再断裂率      男子39% 女子33%       男子13% 女子11%
・ACL対側損傷率    男子39% 女子39%       男子23% 女子37%

【Career Length】
                    Top30               Others          
・ACL断裂あり     男子14.3年 女子10.8年     男子5.9年 女子5.9年 
・ACL断裂なし     男子10.6年 女子11.4年     男子4.2年 女子3.2年


Top30で戦う選手たちは、50%の確率でACL断裂を経験しているという事です。
まぁ、ジャパンの選手も同じような確率で、ACL切ってますしね。。。納得ですわ。
特筆すべきは、男子のTop30の場合、ACL切ってる選手の方が平均キャリアが長いという点!
これにはさすがに驚きました。


最後に技術系チームとスピード系チームでのACL断裂発生率についての記述があり、
この2群間においては有意差がないという結果でした。
ただ、調査期間が1980年からの25年という事を考えると、カービングスキー登場以前のデータが多いため、
このような結果になったのであろうと推測されます。
25年の経過において、1年あたりのACL断裂発生症例数は、
1980年代に比べ2000年代では男子が2倍に増加した一方、女子はあまり変化がないようです。

こんなとこでしょうか。
この結果を見て、皆さんはどうお考えになりますか!?
きっといろんな考えが出てくるのではないかと思いますが。

アメリカ人のACL再建術は? [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

しばらくBlog放置してました・・・
TwitterやFBがあると、ついついそっちだけで満足してしまいますね。

簡単にここ2日間の行動報告。
金曜は史野先生のBTB rectangularとST 3ルートのOpe見学。
手術手技自体は自分たちがやっているものと大きく変わりはなかったのですが、
一つ一つの手技の中での確認事項やピットフォールなどについては、非常に勉強になりました。


そのまま大阪から館林に移動して、『かかし』の串揚げ゚ヽ(o`・∀・´)ノ.+゚
ヘタな大阪の店より、よっぽどうまいです。
金曜飲んでからの、土曜は2コマほど外来バイト。
フリーターらしく、その場しのぎの活動費を稼いできました。


そしてついに、今週末からJリーグ再開。。。って事で、明日はAway大分の帯同!
去年も行ったけど、大分のスタジアムは空港からのアクセスが大変!!(T∩T)
空港バスを使い大分駅まで行き、そこから定額タクシー。
何気に当日入りをしようとすると、朝はめっちゃ早いです。
結局、自宅にはわずか12時間の滞在になる予定・・・

そんな今日は、最近ご無沙汰なACLの事を書いてみましょう。
2月にAAOSへ出席した際に、とあるセッションで会場の意識調査をしていました。
そのセッションはACL再建のレクチャーでも、割とレベルの高い医師向けのレクチャーで、
300人くらいが聞いていたでしょうか。

今日はその内容を走り書きですがメモに取っておいたので、
文字として起こしてみようと思います。
(ちなみに、水色の選択枝は僕の選んだ選択枝です)
多少内容に間違いがある可能性も否定できませんが。。。お許しを。


① 1年間のACL再建手術件数は?
10例以下   ; 12%
10~50例   ; 58%
50~100例 ; 21%
100例以上 ; 9%

この結果からは、今回の母集団はある程度ACL再建をやっている集団という事がわかります



②普段はどんな方法で再建してる?(グラフトは問わず)
鏡視下シングル(1ルート) ; 83%
鏡視下ダブル(2ルート) ; 12%
直視下(Open)再建 ; 2%
その他 ; 3%

③術者として解剖学的2ルート再建を経験したことは?
Yes ; 26%
No ; 74%

思いのほか、2ルートをやっている先生は少ないようですね。



④解剖学的2ルートをどう考えますか?
(やってないが)イイと思う、または常にやっている  ;41%
時々症例を選んでやる ;26%
イイと思うけど、自分にはできない       ;28%
あれはダメだと思う ;5%

でも、認めている先生や、やってみたいと思っている先生も多いようですよヾ(▽⌒*)



⑤グラフトのファーストチョイスは?
自家膝蓋腱 ; 21%
自家ハムストリング腱 ; 63%
屍体移植腱 ; 13%
その他 ; 3%

意外とAutoのハムストが多いのには驚きました。
アメリカの有名な先生たちにはBTBを使う先生が多いせいか、BTBが主流だと勝手に思ってました。
その他のセッションや発表を聞いていても、BTBはかなり少数派でしたね。

ちなみにワタクシは両方選んでますが・・・男性はBTB、女性はSTが第一選択です。



⑤大腿骨側骨孔の作成方法は?
Transtibial ; 37%
Low AM Portal ; 55%
Out-in ; 7%

最近のアメリカのトレンドは、Low AM portalのようです。Fermedial portalではありません。
ポータルはAMの真下、高さは膝蓋腱の真ん中くらいでした。
外国人は窩間が広いから、それほど振らなくても大丈夫なんでしょう。



⑥ACL再建手術の適応を決定する際に、重要視している所見は?
不安定感・膝崩れ(Giving way) ; 63%
MRI所見 ; 2%
KTの所見 ; 12%
臨床スコア ; 23%

⑧患者の術後評価で、最も重要だと思う要素は?
患者本人の膝安定感に対する自覚 ; 62%
Pivot shift test(回旋不安定性) ; 31%
KTの所見(脛骨前方移動量) ; 5%
その他 ; 2%

個人的には膝回旋不安定性の有無を重要視しているので、Audienceの意見とは多少乖離がありました。


ちょっとマニアックな文章になってしまいましたが、アメリカ人の傾向を知ることはできるかと。

ロベルト・バッジョとACL断裂にまつわるお話 [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

今日はイタリアの至宝、R Baggio(バッジョ?バッジオ??)さんのお話。
僕もアメリカワールドカップ以来、大好きだった選手です。
イタリアワールドカップの時は、ゼンガやスキラッチの印象が強すぎて、全く覚えていないのですけど。。。

まさにFWとしても、トップ下としても、いろんな形から得点が取れる選手でした。
GKと一対一の状況でも、ボールを足の裏で転がしながら「タメ」を作って、
落ち着いてゴールに流し込むプレーが、僕の中では印象的な得点シーンとして残っています。
とにかく、シュートを撃つってよりは、スペースにボールを送り込むというイメージが強いんだよね。



まぁ、世界のサッカー好きで知らない人はいないであろう選手ですが、
世界の膝関節外科医でも知らない人はいない!?と思います。
なにしろ、ACL再建後11週で試合に出たのですから・・
先日、なんかの雑誌のドキュメンタリー?コラム??で出ていたのを読んで、思い出しました。

⇒ Return to official Italian First Division soccer games within 90 days after anterior cruciate ligament reconstruction: a case report.

英文で症例報告になってるし(笑)
さすがBaggioです。
ってか、医者も症例報告にしたい気持ちもわからないでもないけどさ。
あきらかに患者が同定されちゃう症例報告って・・・どうなん?(´,_ゝ`)プッ

2002年のワールドカップイタリア代表を目指していたBaggioは、1月下旬の試合でACLを断裂してしまいます。
アズーリをあきらめられなかった彼は、受傷後4日目には再建を行い、すぐにリハビリを始めました。
(ちなみに、この時に執刀した医師はロナウドや、ミルコ・クロコップなどもオペしているそうです)

プールでのトレーニングを中心に、4週間程度は徹底的に筋力トレーニングやコーディネーションを行い、
その後4週間でステップ動作から実践的な動きを身につけたとのこと。
術後11週ですでに20分間限定で出場し、術後13週ではフル出場しています。
しかも、当時世界最強リーグと言われていたセリエAのDFと対峙してですから、すごい事ですΣ(・ω・ノ)ノ

しかも、後半途中からの復帰戦で2ゴール!
本当に持ってますね。


まぁ、強靭な肉体と、強い意志、はっきりとした目標があったからこそできた、奇跡に限りなく近い復活劇です。
良い子のACL損傷患者さんは、絶対に真似しないでください(笑)

ACL部分再建 [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

しばらく間が空きましたけど・・・今日は久々にACLのお話です。

先日のJOSKASでは、ACL部分再建や遺残組織を残した再建が広まってきたな、という印象を受けました。
僕自身は3年ほど前に、広島大学の越智先生が群馬で講演をされたのをきっかけに勉強を始めて、
手術マネージメントにおいて一つの選択枝となった手術です。
ここ3年でボク自身の件数もだいぶ増え、この4か月でも半分近くの症例がこの手技を使った再建をしています。


この術式のメリットとしては、部分的に残っている靭帯および滑膜組織を残して再建する事で。。。

①再建靭帯に対する血流の改善がより良好であると期待される
②遺残ACL表面のメカノレセプターが温存され、術後膝関節位置覚の改善が、より良好になる可能性がある

という事が期待されており、実際にそのような結果を示した論文もすでに出ています。
⇒越智先生 ACL部分再建2年成績

この術式を選択するうえで、どうしても心配になる事が、
「遺残靭帯組織がどれだけ機能しているのか?」
という事なんですが、僕の場合にはそれなりに太い(直径7~8mm以上)移植靭帯を挿入する事で、
仮に遺残靭帯が機能が不十分だったとしても、十分に対応できると考えています。


ここまでを読むと、2本の靭帯繊維がきちんと再建されていないのではないかと疑問に感じる人も多いかと思います。
しかし、近年の”解剖学的な“ハムストリング&BTB1ルート再建は非常にいい成績を示しており、
2ルート再建との成績比較でも、決して劣らない結果を出しています。

ですので、個人的には必ずしもすべての症例で2ルートの再建をするべきとは考えていません。
この考えのバックグラウンドには成績比較だとかバイオメカニカルなTopicsが絡んでくるので、
そのうち紹介できればと思います。


話がだいぶそれました。
最後に、写真を紹介してみようと思います。
この症例は、スポーツ時の膝崩れを主訴に来院された患者さん。
術前のTelosX-pでは左右差が4mmでしたが、再建直前の麻酔下における徒手検査では、
回旋不安定性が強い割には、ラックマンテストでエンドポイントがしっかりある患者さんでした。

手洗いをしながら、
『これは(部分再建)あるよ~!』
と、話していましたが、関節鏡視所見では・・・

図1.jpg

かろうじて整形外科膝関節課 課長の威厳が保たれました(笑)
一見、靭帯は連続性がありますが、AM束(緑線)と比べ、PL束(赤線)では大腿骨側で損傷があります。
わかりにくい方は、次の画像を。

図2.jpg

PL側の大腿骨部(右側です)は繊維が断裂していますね。
残った繊維を傷つけないように、脛骨側、大腿骨側共に関節外から解剖学的位置に骨孔を作成します。

図3.jpg

最後に、移植靭帯を挿入して終了となります。
この症例では残っていたAM束を温存し、PL束のみを直径8mmの半腱様筋腱を用いて再建しました。

図4.jpg


術後リハビリテーションは、通常の再建と同様になります。


最近、画像を勝手にパクる人間がいることが判明しました。
きちんとメールをくれて使用許可に関して断りを入れてくださる方もいらっしゃるにも関らず。。。⊂ ‘Д´)つ =3
そんな訳で、今回から必要性があるような写真に限っては、著作権を入れさせて頂きます。
少々見にくいのですが、ご容赦くださいm(_ _)m

ACL損傷放置例でのスポーツ活動 [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

さて、今年のスキーシーズンも前半戦の山場、全中&IHが終了しました。
IHの女子SLは延期云々で大変だったみたいですね"(^_^;)"


今日は久々にACLの話。
今年もシーズン序盤にも関らず、残念ながら何人かの選手がACL断裂の怪我を負ってしまいました。
しかしそのうち一人はACLが断裂したままレースに復帰し、それなりのリザルトを残しています。
(1月20日に受傷し、2週間後の全中に出場しました)

本当は早期に再建をするべきであり、それまではスポーツ活動を禁じるのがベストなのですが、
最後の全中と言うこともあり、本人およびご両親のキッチリとした理解と同意の下に、少々無茶をしました。
きょうは、その症例に関して注意した点などを簡単に書いてみようと思います。


医者として許可した患者さんのバックグラウンドとしては、

①ACL単独損傷であり、半月板や軟骨、その他の靱帯損傷を合併していなかったこと
②ACL損傷後3日目で可動域制限がなくなり、筋力的にも健側の80%以上が出せていたこと
③Single Leg Hop TestやSide stepなどの負荷において、痛みがないこと

でした。


もちろん、以下の内容を患者さんと家族に説明し、理解してもらいました。

・パフォーマンスは落ちる(満足度として70~80%くらい)
・スポーツ時には必ずACL硬性装具を着用する
・運動した結果、半月板や軟骨に合併損傷をきたす可能性がある
・痛みや膝の腫れが強い日は、絶対にスポーツ活動を休止する
・全中が終わったら、すぐに再建手術を受ける
                            
結果、幸いにも大きなトラブルはなく、成績もそれなりのリザルトを残してくれました。
近々に再建の予定になっています。


自分の印象では、インターハイ、インカレ一部レベルに参加するだけでいいのなら、
ACLは切れたままでもなんとか“ある程度”のパフォーマンスは出せるように思います。
ただ、それらの大会で入賞を争うレベル以上であったり、インターナショナルレベルになると、
それらの試合の中で“戦う”のは難しい気がします。


そういったことも考慮に入れて、ACLの再建時期を決定している今日この頃です。
もちろん先延ばしといっても限度があり、必ず半年以内には再建という話はしていますが。
文献上は3ヶ月以上放置すると合併損傷のリスクが高まるという報告もありますし。
今回が『たまたま』うまくいっただけかも知れませんしね。


ただ、自分の子供なら・・・
よほどの事情がない限りは、できれば無理させないで再建するかなぁ・・・
でも、子供がどうしてもやりたいと言ったら、やらせちゃうかなぁ・・・

非常に悩むところです。
6:4で無理させない方を選ぶというところでしょうか(笑)


岩村選手のACL損傷?について思うこと [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

先日、メジャーリーグのレイズで活躍中の岩村選手が、2塁ベース上でのクロスプレーでACLを損傷し、
今季絶望というニュースを耳にした方は多いと思います。

ところが本日のニュースでは、関節鏡を入れてみたところ部分断裂(部分損傷!?)であり、
2ヶ月ほどで戦列に復帰できる見込みだという話です!
嬉しい話ですが、これにはビックリしました。
サイトはこちら

本文によると・・・
On Monday, Dr. Eaton repaired the torn medial meniscus in Iwamura's knee and also determined that the second baseman had suffered only a partial tear of his anterior cruciate ligament.

⇒月曜にDr. Eatonが岩村選手の内側半月板の縫合を行うとともに、この2塁手(岩村選手)のACLは
部分的な断裂のみの受傷であると診断した。


Because Iwamura had just a partial tear, Eaton was able to use arthroscopic surgery rather than reconstruction surgery, which was the original diagnosis.

⇒岩村選手のACLが部分断裂であったために、Dr. EatonはACL再建手術よりも、
関節鏡視下(修復!?)術の施行が可能であった。


と、あります。
僕の正直な印象としては、
「本当にそんな事が起きうるんだろうか?」
と、思いましたね・・・( ̄□ ̄;)


と言うのも、ACL損傷の診断方法としては

①徒手検査による脛骨の前方動揺性および、膝関節の回旋不安定性の存在
②MRI所見によるACL損傷の確認
③関節鏡視によるACLの触診

などがあげられるのですが、今回手術の前にACL断裂と診断がリリースされていたのであれば、
①、②は確実に存在したはずです。
だとすれば、今回のように鏡視してみたらACLがしっかりしてたなんていうのは、
担当医の「診断のエラー」だったのではないかと竅った見方をしてしまいます。

でも、(年に1~2回ですが)①、②がはっきりしなくて関節鏡をやる症例もあるので、
きっと今回はそのようなケースだったんでしょうね。
ちなみに私のACL再建症例が年間で50例前後なんで、5%以下のレアな確率ですが。

そして、これは無いとは思いますが・・・①があったのに③で大丈夫だと診断したのなら、少し心配です。
Subsynovial tear(滑膜下断裂)の場合、繊維がうまく癒合せずにのちのちACL不全を起こすケースがあったり、
部分断裂でもその断裂部分に限ったACL部分再建を行う方が良いケースもあるので。。。


ま、メジャーリーガーのオペをするようなしっかりとしたDr.ですので、
僕が心配するような次元の問題なんてのは絶対考えているでしょうけどね(^-^;笑)


中途半端に物事を知っていると、余計な心配をしてしまうんだなぁ、と気づかされた今日の出来事でした。
そして、岩村選手の靭帯鏡視所見と、このドクターがやった術式が気になってしょうがない。。。

もっと勉強しなくちゃですね。

日本整形外科学会 ACLあれこれ [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

さて、先週末の日整会で僕が聞いてきたACLセッションでのいくつかのこぼれ話・・・

Dr.Fuの口演では、技術的にはそれほど目新しいものは無かったです。
ただ、トラ、ゴリラ、マントヒヒ、クマなどのいろいろな動物のACL再建を行い、
(もちろん、ケガをした動物園にいる飼われてる動物ですよ!)
動物固有のACLの形態を分析する事で、基礎的な研究に役立てていたというのは、凄かったっス。

あとは、最近欧米でもあまりにも早すぎるリハビリはどうなのか!?と言うのが問題になっているそう。
アメリカでは施設によって、日本の半分以下(4ヶ月程度!)でスポーツへの完全復帰を許しているそうですが、
今回いらっしゃった先生は、それについては疑問視しておりました。
特に死体からの移植(アログラフト)を受けた場合、自分の筋健を使用するより靭帯と骨との癒合が遅れます。
にも関わらず早期のリハビリテーションをやるようなケースに対しては、かなり否定的でしたね。

2ルートとその他(シングル、BTB法)の使い分けについては、まだまだディスカッション中です。
とは言っても今の段階では、学会で有名な施設のほとんどのDr.の術式を聞いていると、
主流はハムストリングの2ルートであることは間違いありません。
どんなケースにあえてシングルを用いるかとか、
従来のBTB法とは異なる、解剖学的BTB再建についてのディスカッションですね。

個人的には、解剖学的なBTB再建に最も注目しています。
2年前、日本のACLを牽引していると言っても過言ではない(^▽^笑)、大阪在住の某S先生が
この方法を紹介していて、それを聞いた瞬間、まさに雷に打たれたような衝撃を受けました。
この2年で僕自身のサージカルテクニックも少しずつ基本のBTB法から解剖学的なやり方に近づけてきており、
その患者さんたちの良好な経過を見ていて、かなりの手ごたえを感じています。

特にこの春、僕が再建したジュニアのスキー選手達がいろいろな理由でBTBでの再建をすることになり、
僕自身としては切り札を切るような気持ちで、この方法に限りなく近いやり方の手術をしたのです。

今回の発表で聞いたところ、解剖学的BTBの患者さんたちの成績は非常に良かったので、
彼らの経過も非常に楽しみにしています。
ある意味、この2年間の僕の集大成!?になるわけですからね・・・
・・・サロモン高校生コンビのお二人、マジで今シーズンはイイ成績を頼みますよ(笑)


ちなみに、一般の方にはなじみが無いかと思いますが、現在ACLは3ルート再建まで進化しています。
技術的には2ルートよりも多少難しいのですが、2ルートの再建をバンバンやっている施設のDr.なら、
全く問題なくできる技術レベルのオペですので、ある程度問題点が明らかになり、成績が落ち着いてきたら、
今後、全国に広まっていく可能性があると思います。

実は正直なところ、僕自身も3ルートACL再建術の手術経験はあり、良い感触も得ています☆v(^ー^)☆
ただ、まだ自分の患者さんに自信を持って勧められるだけのエビデンスがないのと、もう少し思う所もあるので、
ウチの病院ではやっていません。

そういったタイミングと言うのが、非常に難しいんですよね。。。
新しければイイってもんでもないので。

ACL選手フォローアップ [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

実は今年、県内のスキー選手を対象に、シーズン前のサポートを行っています。
まぁ、自分が関わった患者さんだけですけどね"(^_^;)"
そんなわけで今日は夕方に草津へ行って来ました!
予想通りでしたが、とにかく寒かった・・・
防寒はバッチリだったとはいえ、10度以下の気温では、体が固まってしまいます(ノ_<。)

今日の患者さんは、術後6ヶ月になろうという方。
ノルディックの選手ですが、装具をつけてローラースキーを始めてみました。
クラシカルの動きしかやっていませんが、意外とスキーの動きができていて、イイ感じ。
アジリティもなかなかのものでしたので、バウンディングやロシアンハムストなどの
強力な筋トレも許可しました。

来月の今頃は、もう北海道遠征との事・・・
俺も行きてー ( ̄ー ̄)ゞ 

自分の経験では、ACL再建後の女子スキー選手はすぐに成績が出にくい印象があるのですが、
彼女の根性とまじめさ、そして頭脳の明晰さ(これがまたすごいんだ)をもってすれば、
やってくれそうな期待感がありますね。

ケガする前の自分を超えよう!
そして、全国でも結果を出そう!!
もちろん、それは今年ではないのかもしれないけど・・・
一日、一日、少しずつ努力を積み上げていけば、きっとできるはずだよ。

ACL シンポジウム報告 その1 [膝前十字靭帯(ACL)損傷]

さて、今日は簡単に先日の学会(JOSKAS)で聞いた、ACLのトピックについて書いて見ます。

朝一番のセッションは、ACL再建術後の成績や方法をスポーツ種目別に紹介するというものでした。
大阪労災、東京医科歯科、社会保険京都、船橋整形、関東労災などの先生方が出ておられて、
いろんな話が聞けました。

まず、演者の先生方が異口同音に語っておられたのは
「女子バスケットボールのACL断裂が、やたら多い!」ということ。

バスケット部の中・高生や学生さんは、気をつけてくださいね。
競技特性が多分に関係しているようです。
カッティングやジャンプ着地時時の非接触受傷が多いのかな!?
ちなみに、バスケットボールは再断裂や対側の受傷例も多いそうです。

再断裂といえば・・・どこの施設でも再建後の再断裂率は3%~5%程のようです。

体重が重い人や、格闘系の競技選手に対しては、
ハムストリングではなく、BTBを使用するというのも、各施設間で一致したところでした。

気になるリハビリの進み方ですが、2~3週で部分荷重を始める施設が多いみたいですね。
可動域訓練の開始時期についても各施設によってバラつきありです。
日本のACL再建の研究の最先端を走る北大、阪大系は2週間近くギブスで膝を固めているとの事。
(移植腱と骨の癒合を早め、強固に固定する為)
まぁ、個人的な感想としては、ちょっとやりすぎな感もしましたけど。

そうかと思えば、関東労災なんかは翌日から装具なしで全荷重。
これにはさすがにフロアや座長からも、ちょっと疑問の声が。。。
でも臨床成績は非常に素晴らしかったし、きちんとしたエビデンスに基づく計画だそうです。
前にも書きましたが後療法の多少の差異は、成績にはあまり影響を与えていないようです。

そういえば、スキー界でも有名な、関東労災の内山先生の発表を初めてお聞きしました。
内山先生が語っていたスキー関連の要素としては・・・

・半腱様筋に加え、薄筋を採取すると、競技力の低下に繋がるという自覚を持つ選手が多い
・復帰としては、6ヶ月でフリースキー、8ヶ月でゲートトレーニングくらいのペースかなぁ!?
・最初のシーズンに比べ、2年目の方が(採取したハムストリングの再生が進み)滑りやすい
・フリースタイルスキーの場合、エアーの着地で腰が落ち、膝を深屈曲させて着地する事が多いので、  ハムストリングの筋力を大切にしなくてはならない⇒BTBでの再建が望ましい!?
ってとこでしょうか。


そして、ビックリした事が一つ。
内山先生の再建方法は世界のトピックスである機能分担を目指した解剖学的2ルート再建ではなく、
いわゆる1世代前の、単純に2本の靭帯をシンプルに再建するbi-socket法なのです。

当然、座長や他のシンポジストとのディスカッションで、そこを突っ込まれていたのですが、
「私はむしろ、解剖学的2ルートがいいとは思っていない。」
と、断言されておられました。

これはすごい事だな、と、一瞬鳥肌が立ちました。
(意見に同意できない部分は、いくつかありましたけど)

普通、学会でイイと言われている事を聞くと、盲目的にそれを信じてしまいがちですが、
それを上回るだけの自分の症例数、経験に基づく根拠があり、それを信じる事ができるからこそ、
従来のやり方を続けておられているのでしょう。

僕としても、それが良いと信じて解剖学的2ルート再建術を常々行っているのですが、
もし違う方法との比較をした時に、いまやっている術式を内山先生ほどの確固たる自信で
患者さんにお勧めできるというだけの、知識、技術・そして経験のベースがない様に思います。

いつの日か今回のシンポジスト達のような、立派なDr.になりたいものですm(._.)m
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